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ソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソス(ソスソスソス) / U



 最近、女の子(仮)は昔に流行ったRPGのテレビゲームにはまっている。
 ただ今オレの部屋でテレビの前にかじりつき、ゲーム内の中ボスと決闘中だ。
「みたか! 愛の戦士キューピット様の力を」
 そうガッツポーズする女の子(仮)を眺めていて、不意に笑いがこみ上げてきた。すると、ムスッと不機嫌な顔がこちらを振り向いた。
「また笑っている」
「だってよ」
 そう言って再び笑いが――思い出し笑いが止まらない。
 浮かぶ光景。昼休み屋上での出来事。愛の戦士キューピット様が神聖な弓と矢について説明していたときのことだ。
 神聖な矢――不安を倒すためのもの。
 その実演だと、愛の戦士キューピット様はオレに鏃を向けやがったのだ。
 そのときはさすがに、ヤバい、と思った。それは、どうやって作られたモノかわからない代物なのだから。見た目はオモチャみたいだが、マジで体に突き刺さり死んでしまうかもしれない。はたまた、全く別の副作用が発動するかもしれない。
 やめさせないと。
 そう思ったが、こっちは座っていて相手は立っていた。
 そんなことから止めることが出来なかったのだ。
 中途半端に立ち上がりかけていたオレの体に矢が当たり、そして、虚しい音を立ててコンクリートの上に転がったのである。
 勉強机の前に座っているオレは、再び思い出し笑いがこみあげてきた。
「あのときのお前の顔、スゲー間抜けだったぞ」
「いつまで笑っているの。失礼だよ泰祐」
「悪い悪い。愛の戦士様」
 一応謝るが、笑いが止まらない。
 女の子(仮)は焼餅のように頬を膨らませ、プイッとテレビの画面へ向き直り、ゲームを再開し始めた。肩を少し強張らせているその後ろ姿から、どうやらかなり怒らせてしまったらしい。が、こちらは女の子(仮)が生成させた武器にすごく警戒していた分、緊張の糸が切れ、思い出しては噴き出してしまう。あのあんぐりとした間抜けな顔が。
 オレの悪びないその態度からか、女の子(仮)は不機嫌になり、口を利かなくなってしまった。


「遅いね、キューピットちゃん」
 今日も屋上についてきた仁科愛がコンクリートの上に座り、弁当箱を太ももの上に置いた。
「もう来るだろう」
 胡坐を組んでいたオレは窓のほうへ目をやり、少し心配していた。
 女の子(仮)は今、芹沢のもとへ弁当を取りに行っている。さすがにオレがそれを持ち歩いているわけにはいかないからだ。だから、弁当箱を返すのも、女の子(仮)が制服姿になり、行っている。
 ほかの生徒と関わり合いになっていないだろうか。面倒を起こしていないだろうか。そう不安になる。
「おまたせ」
 オレの心配もよそに、能天気な声をあげて現れた女の子(仮)が窓の桟に足をかけ、ヒョイと飛び越えてやってきた。
 ちゃんとオレが言ったことを守って余計なことはしていないよな。そう目で語りかけたが、視線が合うなりプイッとそっぽを向く女の子(仮)。
「愛ちゃん、ごはんにしよう」
 そう言って女の子(仮)は仁科愛のそばに近寄り、くっつくように腰を下ろした。
「どうしたの? なにかあったの?」
 女の子(仮)の態度が可笑しいことに仁科愛は気づいたらしい。
 そう。昨日から女の子(仮)はご機嫌斜めなのだ。
「わーい。今日はハンバーグだ」
 芹沢が作ってくれた弁当を見て、大げさに喜ぶ女の子(仮)。
 仁科愛はほほ笑み返してこっちを見てきた。
 どうやら昨日の出来事を話さないといけないみたいだ。
 仁科愛の顔がそう求めていた。
「……それは鳴海くんが悪いよ」
「でしょう」
 女の子(仮)を小バカにした昨日のことを話すと、仁科愛と女の子(仮)が同盟を組んだように責めてきた。いや、攻めてきた。
「キューピットちゃんがせっかく鳴海くんのためにとしてくれたのに。ひどいよ」
「そうだ。そうだ。バカ泰祐。暴力泰祐」
「暴力?」
「泰祐、すぐ叩くんだよ」
「鳴海くん、ダメじゃない。女の子叩いちゃ」
「いや、それにはいろいろとわけが」
「わけ?」
 女の子(仮)をバカにして笑ったことで怒られていることには納得できる。しかし、女の子(仮)を叩いたことに対しては、オレは悪くない。だって、いろいろと迷惑をかけられているのだから。とくにひどいのは、殺されかけた。だけど、そのことを話すわけにはいかない。謎の生き物だということを話すわけにはいかない。
「謝れ。わたしに謝れ!」
 ここぞとばかり豪語する女の子(仮)。その隣で非難する仁科愛。
 ちくしょう。説明できないのが口惜しい。
「鳴海くん」
「わ、悪かったよ」
 ここは口先だけでも。
 仁科愛の堅く結ばれた唇を見て、そう言っておいた。
「よし。これで二人とも仲直りだね」
 にこやかに仁科愛が言うと、
「仕方がないな」
 と、偉そうな口調で女の子(仮)がハンバーグを口にした。これからはわたしをもっと敬ってほしいよと、なにやらブツブツと文句を言いながら。人様に世話になっている分際で。
「あ、そうだ。持ってくるの忘れてきちゃった」
 不意に仁科愛が食べる箸を止め、両の手を叩いた。
「昨日ほら、落とした矢持って帰るの忘れていたでしょう。キューピットちゃん。からかう鳴海くんを追いかけてここを出たから。それで私、持って帰ったまま、カバンに入れっぱなしだ」
「いいよいいよ。それ愛ちゃんにあげるよ」
「いいの?」
「うん。いっぱい持っているし」
「あんなガラクタ貰っても困るだけだろう」
 二人の会話に思わず本音がポロリと。すると女の子(仮)がギョロリト睨んできたので、慌ててそっぽを向いた。
「全然困らないよ。あの矢、すごく効き目あるから。持っているだけで、私の不安がどっかへ行ったみたいで。気持ちがすぅーとしたし」
 え? 
 仁科愛の言葉に一瞬体が固まった。
「愛ちゃん、本当に」
「うん。さすがキューピットちゃんの矢だと思うよ。ご利益、抜群だね」
「ほら聞いた? 泰祐。わたしの矢は本物なんだよ」
 仁科愛に満面な笑みを見せていた女の子(仮)がオレの制服を執拗に引っ張り、自慢げに言う。
「はいはい、聞いた聞いた」
 オレはうつむきそう返事をした。
 バカな女の子(仮)は気づいていない。もし、あのガラクタな矢が本当に仁科愛の不安を取り除いたなら、彼女の恋は進展したことになる。なんてたって、女の子(仮)は愛の戦士と名乗っているのだから。
 目の前で二人が盛り上がる中、オレは静かに弁当箱の蓋を閉め、
「そろそろ教室に戻ろうか。昼休み終わるぞ」
 と声をかけ、ゆっくりと立ち上がった。

「泰祐。わたしの矢、一本欲しくなったでしょう。なんたって、効き目抜群なんだから」
 ハートの鏃がついた矢をちらつかせ、得意げな物言い。下校中からずっとこんな調子の女の子(仮)。スゲー鬱陶しくて目障りだ。
 普段着に着替えを済まし、オレは女の子(仮)の話しを聞き流した。今はとても女の子(仮)を相手にする気分になれない。
 ベッドに倒れ込み、ぼんやりと白い天井を眺めた。
「どうしたの泰祐。なんだかずっと元気ないね」
「べつに」
 ベッドに上がり覗きこんできた女の子(仮)の幼顔を右手で突っぱねる。
「お悩みですか泰祐。そんなときは、このキューピット様の矢ですべて解決」
「うるさい」
 突き出してきたオモチャみたいな代物を払いのけた。
 すべてはその矢がオレを悩ましているというのに。そのことを全く理解していない。
 仁科愛は、矢のおかげで不安が無くなったと言っていた。一体、想いを寄せている男子とは、どううまく行ったのだろう。まさか、付き合い始めたのだろうか。
 いろいろと妄想が暴走する。
「ちょっと泰祐。神聖な矢になんてことをするの。泰祐も聞いたでしょう。愛ちゃんはこの矢で不安が無くなったって。この、愛の戦士キューピット様の矢の威力はね……いりょ……く、あれ?」
 矢を高々と自慢げに掲げるや否や、首を傾ける女の子(仮)。
「た、泰祐?」
「なんだ?」
「愛ちゃん不安が無くなったって」
「そうだな」
 どうやらバカな愛の戦士は気づいたらしい。ウソか本当かわからないが、そのバカげた矢の役割を。そう。恋の不安をやっつけるという役割を。
「泰祐」
「だからなんだよ」
「愛ちゃん、誰とどうなっちゃったんだろう」
「知るか!」
 オレはゴロリと寝返りを打ち、女の子(仮)から目を離した。

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