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ソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソス(ソスソスソス) / その3

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 昼休みの出来事。芹沢は本当に黙っていてくれるだろうか? 
 午後の授業中、ずっとそのことばかり考えていた。
 放課後になると、隣で挨拶してきた仁科愛に手を挙げて応え、ゲタ箱へ向かった。もちろん、背後で制服の裾を掴んでいる女の子(仮)の存在を了知して。
「せっかく愛ちゃんが声かけてくれたのに、泰祐、そっけないよ。嫌われちゃうよ」
「うるさいぞ。黙ってついてこい」
 状況を理解していないバカにいちいち説明する気にもならない。
 しかも、今は芹沢をどうするかを優先しないといけないというのに。
 あっさりとした性格。凛とした態度。気の強そうな口調。そんな印象の芹沢が、秘密をベラベラと話すことは――ないかな。芹沢と今まで会話をして、人をとやかく批判したのは記憶にない。考えるに口は堅いほうなのかもしれない。
 靴に履き替え、一歩踏み出そうとしたそのとき――
「待ちなさいよ鳴海」
 と、腕をとられた。
「芹沢? おい、なんだよ」
「ちょっと付き合いなさい」
 そう言って、つかつかと早歩きで引っ張られる。
「おい。どうしたんだよ」
「いいからいいから、黙ってついてきなさい」
 正門を越え、帰宅する方向とはまったく違うほうへ。
「芹沢、どこへ行くんだよ」
 問いに無言。ほかの生徒たちが、じろじろとオレらを見てくる。女子と手をつないで帰宅というなら、堂々と胸を張って勝ち組を気取れるのだが。どうみても、無理に鬼退治に連れて行かされるサルといった絵図だ。
「おい。腕を離せよ」
「もう少しだから」
 オレの恥ずかしい気持ちもまわりの視線も、完全にアウトオブ眼中。一心不乱にどこかを目指している。仕方なく諦めて従うことにした。うつむき加減で顔を隠すように。

「よし。ここでいいわ」
 そう言って腕を離してくれたのは、公園の隅。
「ねえ、天使ちゃんいるんでしょう。ここなら子供もいるし、出ておいでよ」
 芹沢はキョロキョロと――なんかスゲー目が輝いている。
 ――泰祐? 
 その囁きに背後を振り返り、まわりを見渡してみた。
 さほど広くない公園で、下校途中の小学生らが数人、鬼ごっこか何かをして走り回っている。こちらを気にしている様子は窺えない。
 別に、女の子(仮)が姿を現しても問題はないだろう。
 でも、しかし、芹沢は何を考えているんだか。
「ちょっと鳴海。早く天使ちゃん呼んでよ」
 待ちきれないのか、オレの両肩を掴み睨んでくる。でも、その顔は怒っているとは違い、ギラギラと輝いていやがる。
「わかった。わかった。近いから離れろ。おい。姿を見せてやれ」
 芹沢の掴まれている手から逃げるように後退り、女の子(仮)に声をかけた。
 ステルスモードを解いた女の子(仮)は、今の芹沢になにやら警戒しているのか、おずおずとしている。
 わかる。わかる。今の芹沢はまるで盛りのついた犬みたいだからだ。
「わぁー。本物だ。本物の天使ちゃんだ」
 理性のネジが吹っ飛んだ。そう表現が出来る勢いで女の子(仮)に飛びかかった芹沢。
「だいずげぇ、だずげで」
 助けを乞うているのだろう。抱きしめられている女の子(仮)の顔は歪み、蒼白している。
 頬ずり、おでこすりすり、頬をつんつん、匂いをかいだり、まるで仔犬を拾った小学生みたいな――てっ、芹沢! 
 オレの知っている彼女は凛とした態度で、強気な口調で――まったくの別人だ。
「だずげでぇ」
 今にでも口から泡を吹きそうな女の子(仮)に気づき、慌てて芹沢を引き離す。

「芹沢。いい加減にしろ」
「ちょっ、え?」
「え? じゃねえ。死んでしまうぞ」
 芹沢は、魂が抜けてしまいそうな女の子(仮)を見て、ごめんなさいと慌てて離れた。

 コホン。芹沢は咳払いをし、オレの背後に隠れている女の子(仮)を一度チラ見して、オレに話を持ちかけてきた。
「記憶喪失なんでしょ天使ちゃん。あたしも治す手伝いをしてあげようかなって」
「手伝う? どうやって? 記憶を直す方法知っているのか?」
「それは知らないけど」
「なんだよ、それ」
「でも、手伝いぐらいできるわよ」
「何を」
「そうね…………たとえば、お昼のお弁当とか。今日、屋上で見た限りでは、お困りなんじゃないの?」
 確かに。的を得ている。これから毎日弁当が半分になるのは、食べ盛りのオレにとって結構な問題だ。購買で何か買うにも、小遣いに限度額がある。
「あたしが作って上げるわよ。今さら二つも三つも変わらないし」
「二つ、三つ?」
「そ。あたしの家、両親共働きだか食事はあたしが作っているの。弟の分もあるから三つ。それぐらい作るの問題ないわよ」
「芹沢がメシを」
「何よ、その目。料理ぐらい出来るわよ。もう小学校のころから作っているんだから」
 意外だ。
 今日の芹沢の弁当を横で見たときは、かなりまともなおかずだった。あれを芹沢が作っていたとは。
 キャベツを真っ二つ。ザ・これが料理。
 そんなイメージの芹沢が、あんな色とりどり弁当を作るとは。
「明日楽しみにしててね。天使ちゃん」
 笑顔でそう言われ、女の子(仮)はこくりと頷き、オレの背に隠れてしまった。完全にトラウマになっているらしい。
 残念そうな顔つきの芹沢。コイツは頼もしい仲間が出来たと思ってもいいのだろうか。
 まあ、昼メシに関しては助かったが。


 翌日の昼休み。薄い白い雲がかかる青空の下。芹沢はトートバックからネコがプリントされたビニールシートを取り出すと、座って座ってと促し、それにオレたちは腰を落ち着かせた。
「はい、天使ちゃんのお弁当」
 そう手渡されたモノを見て、女の子(仮)が一瞬笑みを浮かべたが、身を隠すように、オレにべったりとくっ付いてきた。芹沢をまだ警戒しているようだ。
「と、と、取りあえず、いただきましょうか」
 避けられているのがショックなのか、顔を引きつらせながら芹沢が手を合わせる。
 気になる芹沢作の弁当の中身は。
 定番の卵焼きに――ウインナーはタコではなく蟹の形だと――野菜はブロッコリーにプチトマト――しかもミートボールにエビフライ――ご飯にはふりかけ――なんとカラフルな。
 オレは自分の手元にあるモノを見下ろした。茶色。親に作ってもらっといてアレだが、語れば虚しくなるのでやめておこう。
 隣で女の子(仮)歓喜の声を上げ、二つあるミートボールを一つ口に入れた。人のモノだからなのか、とろけそうな幼顔を見せる女の子(仮)のせいなのか、スゲーうまそうだ。
「おい。それ一つ、オレのもやし炒めと交換しねえか? なんならちくわのキュウリ詰めもつけるぞ」
 女の子(仮)はオレを一目見てニヤリ――最期のミートボールに箸を突き刺した。
「待て。豚肉のアスパラ巻きも付ける。どうだ」
 女の子(仮)の腕を掴み、食するそれを止めた。
「やだよ。これすごくおいしいもん」
「お前。オレにいろいろ恩を感じてもいいだろう」
「ケチだし、すぐ叩くのに」
「よく考えろよ。今こうして……」
「ちょっとちょっと鳴海。やめなさいよ。何意地汚いこと言ってるのよ、あんたは」
 だってミートホールはオレの好物であり、しかも最近では、目の前の白い悪魔に食べられてしまったのだ、オレの好物を。
 女々しいとは思うが――振り返り芹沢に言おうと――ん? 
 芹沢が弁当を差し出している。
「あげるわよ。あと、ミートボールじゃなくて肉団子ね。甘酢餡だからね」
「いいのか? もやし炒めいるか?」
「いらないわよ」
 では、遠慮なく。ごっつあんです。
 そう肉団子を口に運んだ。
「うまっ!」
 正直な感想だ。
 玉ねぎが少々大きい気もするが、それは手造りだということを証明している。少々甘い気もするが、問題ない。
「昨日のハンバーグの残りのネタだから玉ねぎが多いかも。あと、弟が酢が苦手だから甘いかも」
 解説どうも。
 何か心配そうに見てくる芹沢。どうしたのかわからないが、肉団子のうまみがなくなる前に白米を頬張る。
「ちょっとなんか言いなさいよ。無言だったら余計に不安でしょう。その……美味しくないなら……それでも……いいから」
 何を。うまいぞ。うまい。
 口の中がいろいろいっぱいなので、親指を突き出して答えた。それにならってか、頬をパンパンに膨らませている女の子(仮)も同じポーズをしていた。
 正直驚いた。芹沢のスキルに。作れるとかいうレベルじゃない。立派な料理じゃないか。いつも見ている芹沢の態度から想像もできなかった。
「芹沢。お前、やっぱり女子だったんだな。スゲーよ」
 口の中が空になったところで、褒めてみた。肉団子の感謝を込めて――なのに、彼女から鉄拳が返ってきた。
「やっぱりって何よ。あんた、ケンカ売ってるわけ?」
 と。そういうところが、やっぱりと付けたくなるんだ。その台詞はグッと飲み込んでおいた。
「ところで天使ちゃんにいろいろ訊きたいことがあるんだけど」
 食事が終わったところで、芹沢がそう切り出した。
「天使ちゃんの記憶って、どこまで残っているの?」
 その質問に、女の子(仮)は首を傾けた。
「聞き方が悪かったかしら。じゃまず、外見から聞くね。頭の上の天使の輪ってないの?」
 言われてみれば。芹沢の言う通り、女の子(仮)にはそれがない。
 女の子(仮)は上を向く。もちろん、自分の頭上なんて見れるはずもなく――次に両手でバタバタと頭の上を探り始めた。
「たい……すけ?」
 と、おもむろにこちらを見つめてきた。
「えーと。ないな。輪は」
「それじゃわたし、天使じゃないの?」
 不安げに聞かれても、オレにはわかるはずもなく、答えることなんて出来ない。
「ちょっとちょっと、二人とも落ち着きなさいよ」
 短い沈黙を破った芹沢。なにやら女の子(仮)に思うことがあるのか、意味ありげに親指の先っぽを咥え、考えているポーズをとった。
「あたし、思ったんだけど、天使ちゃんって、もしかすると」
「「もしかすると?」」
 オレと女の子(仮)は口を揃えて訊ね返す。
「神様じゃないのかな?」
 …………絶句! 真剣な眼差しで何を言うかと思えば……。
 と、突如、隣で歓喜の声が。マズイ。これは非常にマズイ展開である。
「そうだよ。わたし、神様だったんだ」
 勢いよく全力全開で立ち上がった女の子(仮)。危惧していた通りだ。そう頭を抱えた。
 よく考えてから発言してほしい。人のことを殺しかけたり、脅したり、そんな神がどこにいるってんだ。
「で、芹沢さん。わたし、なんの神様なんだろう」
 人様に訊ねる神って。とんだ神様だ。
「そうね……」
 真剣に考え込む芹沢。お前が命名してどうする。何様だ! 
「恋愛の神様、キューピットなんてどうかな?」
 疑問形ですか? 
「芹沢さん。ナイス。そうだよ。わたし、キューピットだよ。愛の戦士キューピット。かっこいい」
 両手の指を組み、感激のあまり昇天しそうな女の子(仮)。ツッコミどころが満載である。そもそも戦士って。一体、誰と戦うんだか。
「しゃっきーん」
 にこやかな顔をする女の子(仮)がおもむろに手を空に掲げると、まばゆい光とともに弓と矢を手品師のように飛び出させた。
 金色の小さな弓と、鏃がピンクのハート型をした矢。
 なんてこったい。何がどうなった? 
「キューピットといえばこれでしょう」
「どうしたんだ、それ」
「ああ、これ。イメージしたら出てきたの」
 …………唖然。空いた口が塞がらない。
 確かに、空を飛べ、姿を消せて、人間じゃないってのは知っていたが。なんでもありかよ。大体、手にしているそれ、百貨店のおもちゃ売り場で売ってそうな魔女っ子アイテムに見えるのは、オレだけなんだろうか。もうちょっとマシなモノ、イメージ出来なかったのだろうか。
「とりあえず質問してもいいか。記憶が戻った愛の戦士キューピットさん」
「どうぞどうぞ。なんでも、どーんときなさい」
「オレと出会った日、どうして空から落ちてきたんだ」
「そんなの簡単だよ。ぽかぽかと天気が良くて、つい、うとうとと寝ちゃったからだよ」
 女の子(仮)は悪びた風でもなく、あっけらかんと笑っていやがる。
「つまりキューピットちゃん、居眠り飛行ってやつだね」
「そうそう、それ。芹沢さんナイスフォロー」
 意気投合する芹沢。何、話に乗っかっているんだ。勘弁してほしい。
「それじゃ、お前がキューピットだという証明は? 天使だと勘違いしていたように、キューピットだということも間違いかも知れないだろう」
「ひっどーい泰祐。信じていないんだ」
「当たり前だ! 何を根拠に信じろっていうんだよ」
「これだよこれ」
 手にしているモノを突き出してくる。
「そんなおもちゃのような弓と矢で信じるヤツは、幼稚園児ぐらいしかいねえよ」
 そう怒号すると、
「おもちゃって言うな! すごく神聖なものなんだから」
 女の子(仮)が、むきーと足踏みして怒る。やれやれ、完全にキューピット化してやがる。もう半ば呆れてしまった。
「で、愛の戦士キューピットさんは手にしている武器で何をするんだ、一体」
「そんなことも知らないの泰祐? 恋のお助けだよ、こ・い・の。キューピットといえば、それしかないでしょ」
 ふざけたものを持っているお前を見ていると、そう思えないんだが。
 その言葉をため息で表すと、空気の読めない女の子(仮)でもさすがにオレの心情を汲み取ったらしい
「あぁー。信じてなーい。じゃ、いまから証拠を見せてあげるから覚悟してよね」
「おい! 覚悟ってなんだよ。危ない。矢をこっちに向けるなバカ」
「泰祐が信じてくれないから、わたしが泰祐の夢を叶えて証明するの。そうすれば、わたしがキューピットだって信じるでしょう」
 青い瞳をギラギラとさせる女の子(仮)。再びこのパターン。そもそも愛の戦士の敵はオレじゃなく、恋じゃないのか。殺(ヤ)られる前に、オレは女の子(仮)に飛びかかった。ぼう然としている芹沢がいることも忘れて。

 神聖な愛の戦士? まあこの際どうでもいい。言いたいことは一つ。身動きとれない相手に対して、こそこそと攻撃をするのはどうかということだ。
 その意見に、女の子(仮)は見事に引っかかってくれた。
 授業中、ステルスモードで矢を射抜かれることから免れることが出来た。
 だが――
「鳴海? キューピットちゃん?」
 放課後、帰宅する生徒を掻きわけ、廊下を走るオレたちにそう驚いたのは、芹沢。
「芹沢助けてくれ」
 オレは彼女の背に身を隠した。
「観念してよね泰祐」
「観念したら死んじまうだろう」
「大丈夫だよ。死なない程度に力加減するから」
「死なない程度ってなんだ! 傷つくことは否定できないのかよ」
「ちょっとちょっと二人とも、何しているのよ。落ち着いて……てか、キューピットちゃんその格好は?」
「イメージして制服作っちゃった。これなら堂々と愛の戦士として活動できるでしょ」
 そう。終礼が終わると女の子(仮)は教室のドアを開け、現れたのだ。午後の授業中静かだと思ったら、なんてことを企んでいやがったんだか。
 てへっ。と、にこやかに笑う女の子(仮)。ブロンドの髪に桃饅頭みたいな幼顔。小柄な体格に白いブラウスとタータンチェックのスカート。悔しいが、大変似合っていると言えるだろう。
 だから――
「かわいい」
「ぐるじいよ、ぜりざわざん」
 こうなると予想できた。女の子(仮)を拘束してくれる芹沢のもとへ来て正解だった。



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