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ソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソスソス(ソスソスソス) / 得体のしれない女の子(仮)

「死んでたまるか!」
 目覚めた瞬間、激痛が腹部を襲う。
 夕暮の空の下――学校の屋上。
 ……ゲホゲホ……オェー
 カブトムシの幼虫のように丸まって悶え、のたうち回らずにいられなかった。
 危うく別世界の河、三途の河に足をつけるところだった。手招きしていた可愛い女の子が、心ときめく仁科愛にソックリでなかったらマジでついて行って、逝っていたかもしれない。
 仁科愛――彼女は去年から想いを寄せていた女子だ。
 切り揃えられた艶やかな黒髪を首元で揺らし、愛らしい小顔に大きな目の輪郭を携え、小柄で華奢な体つきをした愛嬌たっぷりの可愛らしい女子だ。さらに付け加えると成績は上位保持者だったり。
 そんな才色兼備にもかかわらず、彼女はそれらのことをまったく鼻に掛けないことから男女ともにウケがよく、クラスのみならず学年の人気者だったりする。
 そんな彼女を、中肉中背、成績は中間付近のこのオレが、恋焦がれているなんておこがましいことはわかっている。
 しかし、どうしても諦めずにはいられなかったのだ。
 入学してからこの二年間、彼女とは同じクラスで、席替えするたびに毎回彼女の前後左右に座れるクジ運。さらには、イベントのときなんかでは毎回毎度同じ班。そのおかげというべきか、彼女とはかなり親しくなることができたのだ。それはもうオレの好物のミートボールやハンバーグを彼女が弁当に入れてきたとき――鳴海くん、はい、おすそわけ――などと。
 だからそのたびに勘違いをせずにいられなかったのだ。男子諸君ならきっとわかってくれるはずだ。
 ――これっていけるんじゃねえ? 
 なんて心トキメかすことを。
 でも、そんな淡い妄想や空想も今日の二時限目をもって砕け散ってしまったのだ。
 それは体育の時間のとこだった。偶然片づけが一緒になった彼女の口から聞いてしまったのだ。
『私、好きな人がいるの』
 という現実を。
 だから三途の川の向こうで手招きする彼女が「好きだよ鳴海くん♡」と愛嬌たっぷりの笑みで言うことはないんだと、気がつくことができたのだ。
 彼女のセリフがなければ、やばかった。マジでやばかった。もう少しであの世に逝くところだった。あの世の管理人てのは、なかなかの策士らしい。巧妙な罠に引っかかるところだった。
 苦悶することしばらく、激痛がやや治まりかけたところで呼吸を整え、制服の袖で汚れた口のまわりを拭った。
 しかしなぜ、オレは死にかけたのかと冷静になって考えようとしたその刹那、目の前の光景に唖然と気を取られてしまった。

 なんと

 ねずみ色したコンクリートの屋上で

 オレ以外に人がぐったりと倒れていやがるからだ。
 透けるように細く長いブロンド髪を携えた女の子…………(仮)が。
 幼い顔つきといい、小さな体躯からして小学校の高学年か中学生ぐらいだろうか? 
 着ているワンピースは柔らかさを感じさせる純白の生地。さらには滑らかな白い肌。対蹠的な汚れたコンクリートの上で寝転がっているせいか、その姿はまるで白く輝いていると錯覚さえ起こしそうな――神秘的女の子……(仮)が。
 そう。(仮)と呼べる姿なのだ。
 なぜ、(仮)?
WHY? (仮) 
 それは一目瞭然。
 驚くべきことに

 なんと

 大きな『翼』

 と呼べるモノが背中に生えていやがるのだ。ミルクのように真っ白な――そう、神によって鳥類だけが持つことを許されている、あの、バサバサと大空を羽ばたくことのできるアレが。
 さらには女の子(仮)が身に纏っているモノは、ふわりと柔らかそうなローブと呼べるものだったり。
 これってつまり――もしや俗にいう――てん……いやいや待て待て――
 バカげた言葉は、抱えた頭を振り消し去った。その瞬間、ある記憶がよみがえり意識を空へと向けさせた。
 記憶が正しければ、ハートブレイクしたオレは一刻も早く一人になりたかったので、立ち入り禁止の階段を上り、ここにやってきたのは昼休みのこと。今の空は日が沈みかけ、オレンジかかった夕焼け色をしているが、あのときの春の空は青く、ラムネ色をした晴天だった。
 畜生! と何もかもに嫌気がさし、屋上のど真ん中でねっ転がった傷心気味のオレは、結構ナルチストだったんだ、と思い知らされていたそんなときだった。
 見上げていた青に突如小さな白いモノが目に映ったのだ。そう。最初そのモノは空高くにあって、なんなのかわからず墜ちてきているとも気づいていなかった。
 しかしそれがだんだんと近づくにつれ、落下してきていると認識出来たときはしばらく唖然とし、そして次に逃げなきゃと思えば思うほど、焦り、慌てふためき、ひっくり返ったゴキブリのようにじたばたとしか出来ず、最後にはモロ腹部で受け止めてしまったのだ。
 それ以降の記憶はまったく持って皆無。
 そして今この状況にいたる。春の夕暮れのそよ風に当たりながら。ぴくりとも動かない正体不明の女の子(仮)の隣で。
 一向に動きを見せない女の子(仮)。気になって、腰を落としたまま覗き込んでみるが、眠っているかのように瞼を開ける気配がまったくない。まるで捨てられたフランス人形のように。
 コイツは死んでしまったのだろうか?
 ……なんてこったい。オレのせいじゃないよな。
 無意識に、女の子(仮)の頬に触れようとしている手のひらに気づき、慌ててすばやく引っ込める。
 相手はなんてったって翼を持つ得体のしれない生き物なのだ。手が溶けたり腐ったり、呪われたり爆発したり…………可能性はゼロとは言い切れないだろう。
 しかし生きているかどうか、気になるのも然り。
 と、ふと閃いた。
 コンクリートに座り込んだまま、右足の上履きに手を添え、足から抜き取る。
 もし死んでいたら後味悪いもんな。そう思い、手にした上履きを女の子(仮)の頭に目がけて投げつけてみた。パコンといい音が奏でるほどの強さで、艶やかなブロンドの髪が少々乱れるほどに。もし生きていれば何かしらの反応を起こすだろうと思って。
 しかし反応なし。ついでに付け加えると、転がった上履きにも変化なし。
 もう一度試してみるかと左足へ手を伸ばし、次はさらなる力を込めて上履きを投げてみた。先ほどより空っぽの音が大きく響くほどに。
 すると、
「ううっ」
 と、女の子(仮)がかすかにうめき声をあげた。
 生きていやがった! 
 そう安堵することよりも先に、オレンジ色の空を見上げ、あの高さから落ちてきて無事だということに驚かずにいられなかった。
 飛行機なら絶対に爆発している高度だったぞ。
 死んでいても困るけど、生きているってことは――やっぱりコイツただ者じゃねえ! 
 ビックリ仰天。座ったまま一歩後ずさり、ここへ来たときの窓をチラ見し、女の子(仮)を放置したまま、この場を去ることを考えた。
 幼い顔をしたバカげた架空の生き物かもしれないが、その逆も考えられる。
 もしかすると殺されてしまうかも。喰われてしまうかも。呪われてしまうかも。可能性はゼロと言い切れないだろう。
 膨れ上がる恐怖心に煽られ、おもむろに腰を上げ逃げようとしたそのときだった。
「あたたた」
 目の前で女の子(仮)はねずみ色をしたコンクリートに腕を突き、華奢な背中にある大きな翼を引き摺るようにゆっくりと起き上がろうとし始めやがったのだ。
 オーマイゴット! 
 ここは隠れるところなんてどこにもない殺風景な屋上。しかも、今さらながら聴覚だけが冷静になったのか、あたりから放課後の賑わいを拾いやがる。こんな一大事な時に迷惑極まりない。
 吹奏楽部の楽器の音や合唱部の歌声、体育会系の掛け声などなどエトセトラ。
 どうやらみんな青春真っただなか。羨ましい限りだ。こちらは切羽詰まった状況下であるというのに。
 全身の毛穴からイヤな汗が滲み湧く。
 助けがやってくる見込みはなさそうだ。てか、よーく考えてみればここ、立ち入り禁止区域だったり――人が来ないのが当たり前じゃん。
 目の前の光景に覚悟を決めるなんてことは到底出来ず、喉を鳴らし息を飲むことしか出来ない。
 目覚めの悪そうな顔をした女の子(仮)は、悲痛なオレの存在に気がついたらしく、ブロンド頭を摩りながら円らな青い瞳をパチクリと一度瞬きさせ、マジマジとこちらを見つめてきた。
「わたしは誰? ここはどこ? ……ん? …………だれ? どちら様?」
 その虚ろな台詞から察するに、幼い顔をかたむけた女の子(仮)は、記憶がまだ混沌としているとみえる。今の状況を把握していないとみた。これはなんという幸運。なんていうラッキー。この機を逃すわけにはいかない。
「い、い、いやー、オ、オレも通りかかっただけでして。なんのことやら。はははっ」
 立ち上がりながら自嘲気味に顔を歪ませ、飛び散らかった上履きを回収し始めることにした。なるべくさり気なく、不審のない様に。
「それじゃお大事に」
 そう声をかけ、一目散に窓へ駆け寄ろうと、足に力を込めたその一瞬の間――
 バサッ!
 という音とともに空気が波打った。
 そう。純白の翼が靡いたのだ。まるで間合いを計ったかのように。いつ何時でも動けることを表しているように。威嚇するが如く。
 冷汗三斗。瞬時に足はすくみ、体は凍りついたかのようにおののく。
 ヘタなウソに怒ったのだろうか? それともクツを投げつけたことにだろうか? 
 体が硬直し、喉が泣く。見つめてくる女の子(仮)から目が離すことが出来ない。
 空を差すようにピンと突っ立つ翼は想像していたモノよりさらに大きく、幼い所有者の倍以上はあるだろう。それはそれは威圧感や気合いがたっぷりなほどに。もし、力強さの感じられるその翼で思いっきり攻撃されると吹っ飛ばされ、ひとたまりもないだろう。体をバキバキにされ、死んでしまうかもしれない。
 女の子(仮)はオレの目線を追うようにゆっくりと背後を振り返り、そしてしばらくしたのち、こちらに訝しげな視線をちらつかせてきた。
 怒っていらっしゃるのかな? 謝ったほうがいいかな? 
 ウソをついたとこやらクツを投げつけたことなど、怒らせてしまったことにいろいろと心当たりがあり過ぎる。
 バサッ、バサッ。
 再び翼が靡いた。先ほどより空気が荒ぶっていやがる。彼女の心境を表しているかのようだ。大事なことだから二回羽ばたいてみましたみたいな。
 手遅れかもしんねえ! 殺(ヤ)られっちまう! 
 そう畏怖の念から咄嗟、顔の前で腕をクロスし、防御の体制をとったその刹那、
「あのう。せ、せ、背中のこれ、な、な、なんなんでしょうか?」
 泣きそうな声――声を震わせながら女の子(仮)がそうほざきやがった。

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